毒しか吐かないあたしを養ってくれてるツンデレな彼の名は、六花(りっか)。
月夜見六花(つくよみ りっか)。



あたしの肩くらいまでの男性にしては少し小さな背丈ながら、あたしを護らんとするその背はとても広く頼りになる。



大好きだけじゃ足りなくて、でもどうすれば良いのか解らずに、水面の見えない湖を泳ぐ魚のよう。
ほんとなかなかどうして、恋とは辛く苦しいものね。




「六花、森の外に行こうよ!明日からせーる、っていうのやるんだって!」
「雑誌なんて買ってきてやるんじゃなかった。お前には悪影響だな」
「買ってきたのは六花なのにー。ね、行こうよ馬鹿。このワンピース可愛いでしょ」



悪影響とか酷いことしか言わない彼を軽く馬鹿にして、先日六花の買ってきてくれた件の雑誌を開く。
森にいたら一生手に入ることのない色の可愛いAラインのワンピース。
大抵の色なら染められると思っていたけれど、この色は無理だわ。



「え、この派手なのが良いのか?……まぁお前なら着こなせると思うけど。い、言っとくけど別にその、に、似合ってるとか言ってねぇからな、勘違いすんなよ?」



まさかこんな一刀両断されるなんて思ってなかったから少しイラッとしたけど、彼があたしを森から出す気がないのは百も承知。
であれば、勝手に抜け出すまで!




「ねぇ六花。明日のせーるは諦めるから、このワンピース買ってきてね?」
「はいはい。全く、お前は我が儘なんだから」
「仕方ないでしょ、元お姫様なんだから」




彼は苦笑いしながらあたしの持つ雑誌にピンクのハートマークを描いた。
あたしの発した〝元お姫様〟も、彼はきっと冗談程度にしか思っていないのだろう。
箱入りお嬢様、とは思っているみたいなのだけれど。




さぁ、六花。騙されなさい。
貴方を欺き知識を得て、そうして貴方をめろめろにしてあげるんだから!




「わーいわーいワンピース!」
「うるせぇブス!」
「黙れ馬鹿!」



こうしてくだらない言い合いをしていられるのもあと数日。
押してダメなら引いてみろ、って誰かが言っていたし。
六花だってきっと、あたしを好きになってくれる筈よ。