「……行けません」



呟かれた声は、泣き声に混じりながらも凛としていて、胸を抉られた。
何故、逃げ出そうとしないのか。
無実の罪で殺されるのを知っているのに。




「私はこのお城のプリンセスの話を聞かされて育った典型的な町娘です。まだ王様が生きていらっしゃった頃、プリンセスが1度街に遊びに来ました」
「えぇ、行ったわ。可愛い子がしていた髪飾りを強請ったわね」
「羨ましい、私も欲しいと、プリンセスは仰いました。お母様に愛されている印なのだと。だからお父様である王様に強請られた。〝同じものを作ってください〟と」




それがこちらの髪飾りです、と娘が翳したそれは、林檎の髪に飾られたそれと同じ。
赤い紅い、林檎型。




「母は私にプリンセスのように美しくあれと林檎型で作ってくださいました。私はその話を嬉しそうに聞いてくれたのが嬉しかったんです。ああ、この人は誰にでも分け隔てなく接してくださる美しい方だ、と。だから私はプリンセスのようになりたいのです」



だから行けません、と笑う彼女。
そうまでして守ってもらえるようなことはしていない、と引かない林檎。
微笑ましいが、時間がねぇ。




「……おい薬売り、行くぞ」
「林檎様は任せましたよ?」





問答無用で気絶させて黙らせる。
悪ぃなオヒメサマよぉ。
だけどこれが最善策なんだ、少しだけ我慢してくれよ?