怖いのよ、慣れてしまうのが、と嘆く林檎はプリンセスに向いていると思った。
小さい頃からこういう城内環境が普通だと、それを普通だと思うものだ。
お金がなく小さな子供が市場で盗みを働くのも、それを悪いことだと思っていないからだ。




林檎はプリンセスでありながら、外の世界をよく知っていた。
実際に現状を目にしたのは最近のことであるが、とにかく彼女の知識は豊富だった。




美人で知恵もあるプリンセス、そりゃあ学のないお妃様からすれば目の上のたんこぶだろう。
お妃様は林檎に負けぬその美貌でしか勝負できないのだ。
自らの武器である美貌が国一番のものでないと安心できないのだろう。





「49番……あそこね」
「警備が薄いのがいささか気になりますね。守衛の娘のお陰でしょうか」
「バレる前に助け出すわよ」




林檎が守衛の娘の目を盗んで持ってきた牢の鍵を回す。
深夜の小さな物音に気付いたパン屋の娘が顔をあげる。




何て、痛い表情だろう。
慌てたような、ほっとしたような。
表現し難い気持ちに苦い笑顔を浮かべている。




「どう、して……?」
「助けに来たのよ。さぁ出ていらっしゃい。貴女は何も悪いことはしていないのだから」
「林檎様……」




貴女を殺そうとしたのですよ、と檻の中で彼女が泣く。
それが何だ、林檎はそんなことを気にするような女じゃない。
好きなんだろ、林檎のこと。
国民に愛されるプリンセスが助けに来たんだ、光栄に思えよ。