カツンカツンと、林檎のものではないヒールの音が響く地下牢では確かに守衛の娘の言う通り、お妃様とやらの魔法釜がグツグツ煮立っていた。
行き交う侍女たちのヒールの音かと納得したのもつかの間、林檎が言われた通りの左のルートへ、俺を引っ張っていく。



あの守衛の娘を信じたい、信じるのだと、林檎の強い瞳が告げていて、不安なんてどこにもなかった。
薬売りの娘の牢は49番、左のルートだと確かに遠回りだが、このルートがきっと今回の最適ルートなのだろう。




「暗くて陰気なところですね、林檎様」
「貴方はここには来たことなかったのだものね。城の内部はこんなものよ」



処刑に怯え自暴自棄になり自ら命を絶った罪人たちを見て、薬売りが嫌そうに唸る。
そりゃあ俺だって出来ればこんなもの見たくはない。
だが、林檎のためだ。
ここは腹を括るぜ!



「あの娘には、ここの現状がどう見えているのかしら」
「慣れるんじゃねぇの、仕事なんだろ」
「六花は本当に馬鹿ね。慣れる慣れないではなくて、この現状を変えたいと思ってくれるかしら、ってことよ。薬売りの娘のように無実の罪で捕まっている人がここには沢山いる」



例えばここ、と99番の札のかかる牢を指さす林檎。
そこに収監されている者がいるようには見えないが、つい最近までの生活痕が残って見えた。



「ここにはね、あたしがいた頃に無実の罪で捕えられた人が入っていたの。九重の苦しみを、だなんて深読みして嘆いていたけれど、それでも外に出ることを夢見ていた。けれど、身体がそれを待てずに朽ちてしまった」



悪いことなんて何もしていなくても、お妃様に逆らえば生命がなくなる国なんだ、そういう話があってもおかしくない。
いや、本当はそんなことあってはならないし、その感覚に慣れてもいけないのだろうけど。