林檎のおかげで難なく入り込めた城の内部はかなり複雑な構造だった。
薬売りの娘を助け出せたとしても果たして逃げ切れるかどうかだ。
正直自信はねぇ。


だが、六花六花と寄って来てくれる愛しい林檎のためだ。
多少の無理は承知のうえだ。
躊躇うことなくズンズン進んでいく林檎を見てたら、先の不安に頭を悩ませる俺がバカらしくなってきた。



先の不安に頭を悩ませるのは人として正しい姿だと俺は思うし、なにより林檎は止まることを知らねぇ。
俺がその手綱を握ってやらないと、他に誰があいつを導いていくんだよ?



「六花、この扉の先が守衛室なんだけど……」
「開けられねぇのか。退け。開けてやるよ。別にお前のためじゃないからな!」



こんな時にまで素直になれずに余計な一言を重ねる俺が嫌いだ。
どうして俺は素直になれない。
王族じゃないからか?
林檎は身分で人を選ぶようなやつじゃないことは、俺が一番良く解っているだろう?



「そろそろ来る頃だと思っていました。お久し振りです、林檎様」
「地下牢への入口、開けてくれるわね?」
「はい、もちろんです」



ぽちっとな、と軽い音で扉を空ける守衛。
先程の警備隊長の妹だとか言っていたが、似ていないな。
妹の方が、怖いもの知らずだな。



「気を付けて下さい。今夜はお妃様が魔法釜を使っております。回り道をして左のルートがよろしいかと」
「ありがとう。行ってくるわね」



開けられた扉に迷うことなく足を踏み入れる林檎。
少しは警戒しろよ、その娘が敵方に寝返っているかもしれねぇんだぞ?