今は確かに独りだし、このままならきっとこの先も独りだろう。
あたしっていう重りがなくなって六花は精々するだろうし、彼はあたしがいなくても独りで生きていけるだけの生活力がある。
箱入り娘のはあたしとは雲泥の差がそこにはあるのだ。




それでもあたしを置いてくれていたから、多少はあたしを好いてくれているんじゃないかなんてあり得ない妄想に縋っては、いつも彼の帰りを待っていた。
六花のツンデレを聞いて、「あぁ、あたし生きてるんだ」って実感して。
きっと相当歪んでた。あたしも六花も。



だから薬売りは悪役になってでもあたしと六花を本来あるべき姿に戻そうとしたのではないか。
六花の病気を逆手にとって、薬売りは自ら悪役への道を進んだのではないか。
そう考えると案外すべてのことが綺麗に見えてくる。





一方面から見たその情報と、多方面から見たその情報に差があって、どれが正しいのかわからない時、人間は常に自分に都合の良い答えが正解だと宣う。
でもそれは悲しいことだって、このパン屋さんで働かせてもらってから、嫌というほど学んだ。





「答えは、出ましたか」
「えぇ。あたしはもう少しここで頑張るわ。だから六花に必要のない薬を処方するのはやめなさい、エセ薬師!」




本当は解っていた。
薬売りがあたしにとって悪人でもあって善人でもあること。
独りでの生き方を間接的にとはいえ教えようとしてくれたのは紛れもなく薬売りだ。
六花の体調が悪化していくように働きかけたのもまた、薬売りなのだけれど。




いつの日か森で出会ったあの林檎売りの少女も何かに怯えるきらいがあった。
きっと彼女もまた何かに追われる身の上なのだろう。






「バレていましたか。貴女はもっと箱入りで、世間の流れになど乗れない姫だと思っていましたよ。少し侮り過ぎたようですね」