薬売りに引き摺られて来たのは本当に件のパン屋さんで、拍子抜けした。
六花を助けるために働くことを赦してはくれたけど、森に帰ることだけは許してくれなかった。




六花は大丈夫かな。
ご飯食べて薬飲んだ?




そばにいてあげられないことに不安しかないけれど、それでも六花のために役に立ちたい気持ちは変わらない。
だから無謀だって解ってて働くことに決めた。




タダより高いものはないって言うけれど、確かに怖いよ。
ちゃんと働けるのか、ってだけじゃなくて、箱入り娘のあたしで本当に六花の役に立てるのかが。





「貴女は働くことになれてないのだから、1週間はパンを並べるだけで良いわ。並べながらパンの名前を覚えなさい」
「それ、だけ?」
「それが重要なのよ。何事も基本でしょう?」




パンの名前を覚えるだけの1週間で、きっと六花はどんどん弱っていく。
2週間分くらいの薬は置いてきてるけれど、流石に心配。




六花辛くないかな、大丈夫かな。
普段あれだけ六花を馬鹿呼ばわりして、素直になれていないけれど、失いそうになってから六花への想いの大きさを知らされるなんて、本当に遅い。





「よし、お店開けるよ!頑張ってね、新人ちゃん」





パン屋の奥さんの声が響いたと覚えば、すぐにお客さんがなだれ込んで来て、六花のことを考える時間を奪われてしまった。