翌日、私は昼休みを狙って梶くんに声をかけるつもりでいた。
 が、しかし、昼休みになって斜め後ろにある梶くんの席を振り返ると、そこにはもう目当ての人物がいなかった。
 今までのことを思い返せば、昼休みの教室で梶くんを見かけたことはなかった気がする。わざわざ教室ではないどこかに行くとすれば、食堂しか思い当たる場所がない。


「沢田ー!昼飯食べようぜ」


 後ろからそう声をかけてきたのは中島だった。


「ごめん、私今日はちょっと用があって……」
「用って何?」
「え、えっと……」


 今までほとんど接点のなかった梶くんに用がある、なんて言ったら色んな意味で誤解されてしまうのは容易に想像がつく。


「ご、ごめん、ちょっと急いでるから!」
「ちょ、おい、沢田!」


 中島が引き止める声も振り払ってその場を駆け出す。なるべく早く梶くんを見つけよう。
 中島には申し訳ないけど、梶くんにこれ以上迷惑はかけられない。

 それからの私は食堂や購買、校庭をぐるりと一周して探したけれど、どこにも梶くんの姿は見当たらなかった。
 梶くんといえば、無愛想で人が多いところはあまり得意そうではない。ということは、昼休みという貴重な時間を一人きりでいられる場所で過ごしている可能性が高い。図書室は少しイメージと違う。確かに大人しくはあるけれど本を読んでいる姿を見たことはない。
 だとすれば、他に一人でいられる場所は……。


「屋上……!」


 そうだ、屋上があった。近くの時計を見て時刻を確認すると昼休み終了まではあと10分程ある。全力疾走すれば何とか間に合うかもしれない。
 校庭から屋上にめがけて私は全速力で駆け出した。