「もう泣き止めって……何かよく分かんないけど悪かったから」


 そもそも私が勝手に泣き出したのが悪いのでそこまで強くは言えない立場だけれど、女の子を泣かせておいて謝罪のセリフが『よくわかんないけど』なんていうのはあんまりではないだろうか。

 そんな梶くんにちょっと意地悪してやりたくなって、涙はだいぶ収まってきたけどわざと鼻を啜ってちょっと大袈裟に泣いたふりをしてみた。
 そんな私も人のことをとやかく言える性格ではない。


「え、ちょ、まだダメ?」


 梶くんの焦った声。私は俯かせた顔をニヤニヤとしたり顔に染めた。


「え、えっと……じゃあ、これ貸す」


 焦った梶くんは鞄の中を弄ると、そこから見たこともないパッケージのゲームソフトを差し出してきた。私は泣き真似も忘れて思わずそれを凝視した。


「面白いからやってみれば。集中すれば泣くことも忘れるよ」


 そう言って私の手にそれを押し付けると梶くんは光の速さで教室を出て行ってしまった。
 それが私と梶くんの最悪すぎるファーストコンタクトだった。

 あれから一週間が経ったけれど私と梶くんの関係は今までと何ら変わらない。ただのクラスメートで、ただの少年Aと少女Bのままだ。
 押し付けられたゲームソフトを返すタイミングも見つけられないまま、何だか私は梶くんに避けられてしまっている。そもそも梶くんは元々あまり人と関わりたがらない性格だったので、やっぱり前と変わってないのか。

ともあれ、このまま人のものを借りパクするのは私の主義に反するので、なるべく早く返さなくては。