「言わないなら、無理やり言わせるけど」
「え……っ」


 梶くんがずいっと顔を近づけて、私をフェンスに追い詰める。
 既視感のあるシチュエーションに私は昨日やっていた乙女ゲームを思い出した。梶くんに似たキャラとのドキドキイベントの中に壁ドンがあった気がする。
 鼓動が聞こえてしまいそうなほど密接した距離感で梶くんが私の瞳をジッと見つめた。


「か、梶く……」
「黙って」
「………っ」


 吐息が唇に当たってこれ以上ないくらい顔が熱くなってきた。このままキスをされるのかと思うとたまらなくなってぎゅっと目を閉じた瞬間、梶くんの指先が私の下目蓋に触れた。


「やっぱくまできてる」
「……え?」
「今度から姉ちゃんにゲーム貸すなって言おうかな」
「え、そんな……っ」
「話す気に、なった?」



 こんな時ばかり不気味なくらいの笑顔で梶くんが私を見る。ゲームみたいな展開を期待してしまった自分が恥ずかしくて当て付けのように梶くんをキッと睨みつけた。