「あんたの泣いてる顔、ブスだしむかつく」
「……酷い」
「でも、笑った顔は、嫌いじゃない」
「……っ」


 言い終わってから梶くんは顔だけでなく耳まで真っ赤にして俯いた。


「今の、やっぱなし」


 弱々しい声でそんなことを言う梶くんにクスリと笑いがこぼれる。


「やだ。私の脳内フォルダーに永久保存してやる。なんなら梶くんの今の顔も携帯のフォルダーに保存したいくらい」
「……やめろ」
「ねえ、もう一回……「やだ」


 即答だった。言い終わる前に却下された。


「もうちょっと甘くしてくれてもいいのに……」
「は?」
「梶くんのケチ」
「……あんた、性格悪い」


 ようやく顔を上げた梶くんはまだほんのり顔は赤いままで、小さく舌打ちをしてから、まるでいつもの皮肉を垂れるようにボソリと呟いた。


「あんたが好き」
「……っ」
「………」
「梶くん、可愛すぎるんですが」
「……うっさい」


 私は知っている、梶くんは九割の毒で出来ていることを。
 けれど、たった一割の甘さがこれだけの破壊力をもつのなら、その九割さえも、愛しくなってしまう。私も相当絆されやすいのかもしれない。


「あのね、梶くん」


 だから私も梶くんにとびっきりの甘さを教えてあげることにした。それは、想いが通じ合った時にしか感じられない特別の甘さ。
 梶くんはきっとその甘さに、また毒を重ねてくるんだろう。でも、それも、梶くんになら悪くない。
 そう思えてしまう私は、もうとっくに梶くんの毒に侵されてしまっている。



fin.
2017.03.13
2020.08.04