「梶くんが優しいのって、珍しいね……」
「……別に優しくしてるわけじゃない。ただ、女が泣いてるの見たらこうしてやれって姉ちゃんに一時間くらい説教されたから」
「ははっ、お姉さん強い」
「うるさい、苦手なんだよ……」


 梶くんがゲンナリした表情で呟く。


「でもさ、梶くん」
「ん?」
「梶くんはやっぱり優しいよ、ありがと」
「………っ」


 行動は確かにお姉さんに教え込まれたのかもしれないけれど、さっきの言葉は全部、梶くん自身が、梶くんの言葉で言ってくれたものだから。どんなに悪ぶったって、梶くんは優しい。少なくとも私は知っている、梶くんの優しさを。

 涙をハンカチで拭って顔を上げると、梶くんは頬だけでなく耳まで真っ赤にして私を見下ろしていた。


「梶く……」
「うっさい!あ、あんたが変なこと言うから……!」


 手の甲で慌てて表情を隠した梶くんがキッと此方を睨みつけてくる。
それを見た自分がどこか冷静に、これが所謂、萌えってやつだろうかなんて、そんなことを考えていた。


「も、もう帰るっ」
「え、あ、待って梶く……」
「ついて来んな。あんたまだ目が赤いし、しばらく動かない方がいい」
「……」
「じゃあ」


 鞄を脇に抱えて梶くんは逃げるように教室を出て行ってしまった。