「…っ、高沢先生!」



先生はゆっくり振り返る。



「走んなよ」



こんなときまで私の体を気にして注意してくる。



「ありがとうございました」



先生はびっくりしたみたいに、目を少しだけ見開いた気がした。



自分のことなんて全く話さない先生が、私のためにあんなに大切なことを話してくれた。



私なんかのために。



少しだけ、先生との距離が縮まった気がした。



そのことに少しだけ、嬉しく感じている私。



先生は私に近づくと、私の頭をくしゃっと撫でてまた歩き出した。



何も言わずに。



小さくなっていく先生の背中から、目を離すことができなかった。



キューッと胸がしめつけられる感覚に、思わず胸の前でこぶしを握り締める。



胸を撫でれば、いつもより鼓動が早い気がする。



あれ、この感じ知ってる。



ずっと感じていなかったこの感じを、私は知っている。



なんだったっけな。



思い出すことを躊躇してしまう。



ううん、そんなはずない。



違う。



きっと、


たぶん、


おそらく、


走ったからだ。



走ったからこんなに胸の動きがはやいんだ。



走ったから顔があついんだ。



そうだよ。



そうであって……