いつもの俺ならこの最悪な空気の部屋から黙って出て行く。
が、今はそんなことはできない。
俺のすぐ隣で寝ているこいつを、放置して出て行くことはできない。
ここは耐える。
「何か…答えてくださいよ…」
さっきより低く掠れた石田さんの声に、顔を上げて口を開く。
「してます…って言ったら?」
俺の返答に、
今まで俯いていた石田さんも顔を上げたことが気配で分かった。
「それならいいんです…まだ気にしてるんじゃないかって、気になった、だけなので…」
「何年前の話ですか」
「…もう前進しているならそれでいいんです、ほんとに…。そのまま、前だけ向いて…進み続けてください」
そう言って石田さんは休憩室を出て行った。
…嘘だよ。
恋なんてずっとしてねぇよ。
だけどそうは言わずに嘘をついたのは、
俺の優しさ。
ただの自己満足かもしれないけど。