女の人は左之に支えられながら、何とか立ち上がる。
「ありがとうございました。
では」
ぺこりと頭を下げて行ってしまった。
「ここは遊郭が近く、その分街も華やかに見えるが、路地裏では遊女に上がれなかった〝下の出〟奴らはああいう風に鬱憤晴らしなんかにされたりもするんだ」
佐之は彼女の背中を見ながら、悲しい顔をしていた。
「ここは裏と表が激しい世界だから、俺達も簡単には手が出せねぇんだよな」
悔しそうにボソリと漏らした。
それ以上声を掛ける理由もなく、私たちも屯所に戻ることにした。
屯所に戻った時にはもう夕方だった。
「左之さん!
今日飯当番だよ」
平助に言われ、私も思い出したように台所に向かった。
総司も台所に入るところだった。
私たちを見て、冷たい視線で見つめた。
「二人って仲いいよね。
好き合ってたりするの?」
冷たい声はどこか寂しそうだった。

