「……香月雨ちゃん…」



その名前を大事そうに呼んだ。



そして彼女はクスリと微笑む。





「あなたを傷つけさせたりしないわ」



胸に両手を重ね、強く心に決めたのだった。



一方で去って行った男はほくそ笑んでいた。




「嬉しそうっすね」



少年の言葉に答えることは無かったが、彼の表情が答えだった。



少年は立ち止まり、彼の背中を見ながら「あーぁ」と困ったように笑う。




嬉々とした背中は事情を知っている者から見ても、不気味なくらいだった。



「これは、雨さん大変だ」



そう言った彼の言葉にも、期待の心が混じっている。