『っていうか! コイツって呼び方酷くない? 僕だって人なんだぞ! それに、名前だってちゃんとあるし…』

魔神とだけあって凄い名前を期待する。ゴクリ。私とアヤは唾を飲んだ。


『カネコって言うんだ』

カネコ…?えっ。
カネコ!? てことは魔神カネコ!?

「ブッ!」

「マリちゃん! 抑えて! 確かに普通過ぎる名前だけど!!」

「あっはっはっはっは! カネコ!! 普通過ぎるー!! 普遍住民によくいるわ! ひー、お腹痛い」

久しぶりにこんな笑ったわ…。カネコってほんとじわる。やばい。

『改めて、魔神カネコだ。カネコって呼んでね♪』

何回聞いてもちょっと笑ってしまう。
アヤがタイミングを見計らったように言った。

「ね~、お兄さん」

『なあに?』

「どうしてそんなに色々教えてくれるの? サクラを助けるとか~、わざわざ能力上書きしてまで説明したり」

アヤは少し不安な様子で青年に尋ねる。そのことに関しては私も疑問に思っていた。私達に説明して何になる?

『それはもちろん…』

ぐにゃぐにゃと青年の背後の景色が歪み始めた。

『君達は僕と一緒に特殊ジャペンに行ってもらうからでーす♪』

景色の歪みに指を指して得意気に言った。

「「え」」

『ちょっと、協力してくれない?』


*****************


「状況が全く掴めないんだけど」

ミカが不機嫌そうに言う。それもそうだ。見慣れない真っ白の景色。嗅いだことのない匂い。明らかに普遍ジャペンではない。つまり私達は特殊ジャペンにいることになる。
私も正直よく分からない。なんでカネコに着いてきてしまったのか…。

〝『サクラちゃんを助けたいでしょ?』〟

言い逃れしようとしたら言われた一言だ。
…。確かに、私達を動かすにはもってこいの口実だ。まだ、カネコを信用しきっては無いけど。
カネコは男性をワープのような能力(テレポート?)で転移させていた。その時、男性は「ありがとうございます」と。自分を殺したはずのカネコにお礼を言っていた。何故? ドMなの? いや、違うか…。

「私もイマイチ分からない。カネコ、ここどこ?」

『特殊ジャペンだよ』

「いやそれは分かってるんだけど…」

―強引にミカを引っ張ってあの〝歪み〟に飛び込んだ。すぐに特殊ジャペンに行けるのかと思ったら、辺りが真っ白な世界だった。
上も下も分からない曖昧な世界。先陣をきるカネコにひたすら着いていく。「歩きすぎて疲れたわ~」と呟くアヤに「何でお前らアイツに協力してんだよ…」と嘆くミカ。

『あっ、そうだ!』

「今度は何~、お兄さん元気すぎてJKついていけな~い」

『特殊ジャペンに入るには条件がありますっ』

カネコは人差し指を立てて言った。

「条件って何? 内容次第ではもっかい殴るよ」

『まぁまぁミカちゃん。僕には勝てないって。僕の言う事に従った方が痛い目に合わないで済むよ』

「てめぇ…っ!」

「ミカちゃ~ん。その傷で動いてはいけませんよ~」

今にも殴りかかりそうなミカを止めるアヤ。一見落ち着いているように見えるアヤだが、心底不安なのは私でも分かる。

『その条件とは…、ドゥルルルルルルッダン! 〝能力を持っていること〟です!』

クイズ番組のように言うカネコ。

「…それじゃわたし達無理じゃない?」

当然だ。普遍住民に潜在能力などない。

『命晶を取り込めば良いんだよ?』

「え―」

命晶を、渡された。