「目の色が…」

『これは炎の命晶』

胸元に差してあった白いバラにフッと息をかけた。息というより、炎だ。
白いバラは一瞬で燃えて灰になった。

『見て分かったと思うけど。まあ、こういうことさ』

サラサラとバラだったモノを空に放った。
不安な心が赤く染まった目に射貫かれた。心を覗かれたかのような感覚にゾッとした。
いつの間にか手当が終わったのか、アヤが隣にいた。ミカはベンチに寝かされていて、切り傷が痛々しい。

「お兄さんはつまり、サクラの能力の命晶が欲しくて殺したって事だよね?」

アヤは落ち着いて言う。

『そうだね。きみの隣の彼女に説明する為にサクラちゃんの能力を上書きしちゃったけど』

呆気ない言い草に殺意が沸いた。

「そんな事の為にサクラを…」

心の声が漏れた。


『サクラちゃんのこと助けたい?』



私もアヤも顔を上げた。
しかし、現実を見てうつむいた。だってサクラはもう―

「何か策略でもあるような顔してるね~?」

青年はアヤの煽りにニンマリと笑った。

『助けるというか蘇生させるんだけどね♪』



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「…は?」

正直意味が分からない。サクラの能力の命晶の為に何も惜しまず殺した青年。なのに何故蘇生させるなんて提案してるんだ―
何か裏があるんだな、きっと。私らを利用して何をするつもりなんだろ。アヤも同じような事を考えてるみたいだけど― サクラが生き返る保証なんてどこにも無いじゃん。

『信じてないみたいだね♪ まあ、無理もないかー。んー、そだな』

青年は少し悩んだ様子で右手の人差し指をくるくると回す。すると上空にスーツ姿で20代くらいの男性が、うつ伏せになって現れた。

「ヒッ」

私は短い悲鳴を上げた。血は出ていないが右手がないからだ。

『この人は氷の能力の使い手だった。ちな、彼女持ち。』

その彼女は、彼氏を殺されてどんな気持ちだったろうか。

『そんで、これがこの人の右手』

男性の上に右手がフワフワと浮かんでいる。

『彼に癒しを…サスターナ』

ぼそっと彼は呟く。
すると、右手が動き出して男性にくっ付いた。キラキラと輝きを放しつつ、細胞が修復されていく。

「おいおいお兄さん、それマジ?」

『マジだよ~♪』

私は息を飲んだ。

「…うっ…」

―男性が、蘇生したのだ。

『これで分かったでしょ? 僕にはサクラちゃんを蘇生させることが出来るの』

あながち間違いではないようだ。
でも、あの青年は〝能力は上書き〟って言ってた。さっき炎の命晶を取り込ん出たからあの回復の能力は一体どこから?
青年をボーッと見つめて考えていたら、青年がこっちに気付いた。

『やだなあ~♪ そんなにじっと見つめられたら僕照れちゃう』

「は?…」

ニマニマと笑う青年。ひきつり笑いの私。

『あっ、説明してなかったね!やっだ~! ごめんごめん☆』

そう言い私達にウインクをした。

『 僕さ魔神だから命晶の能力の他に神の能力に干渉出来る能力があるんだよね。他の神の能力使えるんだよね。最強の能力だよね! はっはっはっはっ!』

一人で笑い出した。
どうやら、青年は特別な存在らしい。

「何でもアリかよ…」

「マリちゃん、コイツは特殊住民だよ~。普通を求める方がおかしいって」

確かに。とっても納得。
夕日ももう沈みかけていて、薄暗くなっていた。
青年は満足そうに微笑んでいた。