「ここから先は普遍警察が調査する。君達も協力ありがとう。」

私達三人は学校の会議室でさんざん質問攻めに遭ったが、サクラが〝私達と駅で別れた後、一人で学校に戻った〟以外の有力な情報はあまり手に入らなかったのだろう。

私らは小太りで程よく日焼けした、いかにも警察官みたいな男性と握手をし、会議室を出ていく。

ドアを閉める時に、後ろから小声が聞こえた。

「…もしかしたら、特殊警察にお世話になるかもな」

もしかしなくても、これは特殊警察の担当だと思う。
…手首がない。しかも綺麗に切り取られてたんだもんな…。計画的犯行? 能力系? どちらにせよ普遍警察は役に立たない、ほんと。

元々、普遍警察は犯罪防止の警備がメインであり、取り締まりは特殊警察がやっている。
そもそも普遍ジャペンの住民ー普遍住民は特殊ジャペンには行けないが、特殊ジャペンの住民ー特殊住民は普遍ジャペンに来ることが出来る。
私は、同じジャペン民なのに差別みたいなシステムが嫌い。ー最も、普遍住民は特殊ジャペンへの行き方を知らない。
特殊警察は普遍警察が呼ぶとすぐ来てくれる。都市伝説だけど、特殊警察は普遍ジャペンを監視してるーーとか。


**********************


もう夕日の日が射し込む廊下を三人で歩く。会話はない。
D組をちょっと覗いた。
サクラにはブルーシートがかけられていて、当分学校は開かないだろう。

「使えねーな、普遍警察」

ボソッとミカが言った。

アヤも眉間に皺が寄っていた。
ミカもアヤも同じことを考えてるんだな…。一旦、頭の中を整理しないと。

下駄箱でスニーカーを履いてる時、ふと違和感を感じた。頭痛のような、眩暈のような。目の前にいるミカとアヤが霞む。
いっつー。最悪。頭痛薬飲まなきゃ、

ヴヴヴヴヴヴヴ!

頭に強烈な振動が襲った。私はしゃがみ込み、頭を抱える。頭を内側から何度も殴られるような痛みだ。

「痛い痛い痛い!!! 」

「どうした!?」 「マリちゃん!」

二人が駆け付けてくれた。サクラの件もあり、かなり動揺していた。でも次第に意識が薄れてーー

『どーも、こんにちは~!』

ーーー戻った。
頭痛も眩暈も完全に消えた。

「頭痛が痛くない…」

「マリちゃんそのジャペン語おかしい」

アヤも安心そうにいつものツッコミを入れた。

「待てよ、お前誰?」

ミカが怪訝そうな顔で目の前の人物に問を投げつける。

「「あ、確かに」」

私とアヤがハモった。

『もー、ミカさん以外気付くの遅いですよぅ! ツッコミそうになりましたわ~! はっはっは!』

目の前の人物ー白いスーツを来ている青年。胸元には白いバラが差してある。黒髪に茶色い瞳していて、ニコニコと笑う顔には笑窪がある。
17、18歳くらいかな。私らと同い年…? てか、めちゃくちゃイケメン!! って、そうじゃなくて!

『私はどこから来たか ですね?』

「なんで分かるの? モイキー」

「モイキーとか古」

アヤの強烈なツッコミ。
モイキーには触れずに、白いスーツの青年は答える。

『じゃあ軽く自己紹介するね』

ニコッ! と笑うと、左手の人差し指を立てる。

『僕は魔神! 人間の姿してるけど、これ僕の本来の姿じゃないんだ』

「マジンって何? どっかの宗教?」

私は十字架を崇める団体を想像しながら言う。

『はっはっは! 違う違う、魔族の神だよ。これで分かるかな』

立てた人差し指をくるくると回すと、人差し指の上の空中にスイカ1つ分の大きいビンのような入れ物がポンッと出てきた。
中には黄色がかった液体と、その中によくわからない物体が沈んでいる。

「特殊住民!?」

ミカは青年の能力を目の前で見せられて動揺を隠せていない。

「〝鎌狩りの魔族〟の神か~。めちゃくちゃイケメンの割には気色悪い趣味してんのね~。顔が勿体無いなぁ、お兄ちゃん」

アヤは嘲笑を浮かべている。

『ご名答~! 高校で習ったのかな? 鎌狩りの魔族なんて最近は言わなくなったけどネ』

嬉しそうにぱちぱちと拍手をしている。

アヤは青年を睨みつけている。まるで復讐をするような。
…復讐? アヤは何を見てー

「…ッ!」

息を呑んだ。
ビンの中に、人の手首が沈んでいた。