異変に気付いたのは、学校に着いてからだった。
教室でカバンを机にかけると、廊下をパタパタと走ってく人がたくさんいた。
どうやら、2-D組で何かあったらしい。どうせ、誰かが窓ガラスでも割ったんでしょ。そこに、

パタパタパタパタ!ガラララッ

物凄い勢いで教室の扉を開ける人がいる。D組は隣ですよー。と心で呟いた。
しかし、息切れしてるその声で、アヤだと分かった。

「アヤ? どした?」

「マリ…ッ!!」

今にも泣きそうな顔をして私に抱きついてきた。いつもの毒舌はどこいったんだよ。可愛いな…って、どうしたんだろ。

「何、どしたん? 好きな人にでも振られ…」

いつも言うと怒られるセリフを言いかけて、尋常じゃない顔の青さに気付いた。

「顔…」

「サクラがっ、サクラが…!」

ヒュー、ヒューと過呼吸になっているアヤの姿を見た。サクラに何かあったのだろう。

「一回落ち着いて。ゆっくりでいいから」

アヤの背中をポンポンしながら、落ち着かせる。

ヒュー…ヒュー…

次第に落ち着いてきた。心の整理もついてきたのか、顔色も良くなってきた。

「大丈夫? 話せる?」

冷や汗が酷い。今話させるのも酷だと思う。でも、サクラに何かあったと思うと、話させないわけにはいかない。
コクリと頷くと、意を決したように口を開いた。

「サクラが…」

ぐっと、涙をこらえていた。


「サクラが…死んだ」


…。


「…え?」

よく、言っている意味が分からなかった。アヤは何を言っているの?
サクラが…死んだ? 死ンだ? シンダ?


死んだって…何?



あれ、頬が濡れてる。なんでだろう? 目から何か出てる。涙? どうして泣いているの?

「D組で、サクラが倒れてたの。死因は出血死…」

もう、考える事は出来なかった。アヤの声は音として耳から脳へ、そしてまた耳から出ていく。

「右手が…無かったの」

そう、聞こえた気がした。

*********************

学校は急遽休校になった。

私は、サクラの死体を見た。目の前にいるサクラは倒れたように死んでいて、今にも起きてきそうだった。ただ、右手が綺麗に切り取られていて、その近くには血溜まりが出来ていた。数学のノートにも血が染みていて、別れ際のあの会話を思い出した。

〝「マリ、明日数学のノート見せてー」〟

うん、見せるよ。いくらでも見ていいよ。

ポロポロ、ポロポロ

涙が、私の目から溢れてくる。頬を伝って顎に、そして床に落ちていく。

手元にある自分の数学のノートを見返して、心が締め付けられた。どうしてサクラが死ななくちゃいけなかったの?
行き場のないこの感情を、ノートにぶつけた。

「なんっ…で!! サクラが死ななきゃいけないんだよっ! どうして!! どうして!!!」

ビリッビリビリッ

ノートは無残に散っていく。その一欠片がサクラの血溜まりに落ちる。サクラの血を吸って赤く染まる。



「誰かが、殺したんだよ」

後ろから声がした。
ミカだ。

「犯人捕まえるよ~。サクラをこんなにした犯人を絶対許さない」

怒りが抑えられていない声でアヤも言う。

私も同じ気持ちだ。サクラの代わりに復讐をしよう。そう心に決めた。

「サクラ、犯人は絶対私らが突き止めるから」

そう言い、サクラに背を向け歩きだした。