ん―
あれ? ここ、どこだ?
目が覚めると、薄暗い場所にいた。うつ伏せに眠っていたようで、首が痛い。とりあえず、今の状況を確認しなければいけない。

「痛…っ」

起き上がろうとして、盛大に倒れた。ここで初めて手足が縛られていることに気付いた。どうやら植物のツルのようなもので縛られていて、細い割には硬すぎるその拘束に能力だと判断した。
奇襲? 私らの匂いを嗅いで襲ってきたの?
真っ先に思い浮かんだ。一番簡単な理由だろう。

いや、違う――
カネコが匂いを消したはずだ。もし消えていなかったらさっきの都会にいる時も、カフェにいるときも、〝一般人〟になれていない。
! そうだ、アヤとカネコは!? それに、運転手のおじさんも…!!

次第に目が慣れてきた。どうやら木造の小さな小屋のようだ。埃を吸い込んでむせる。長年の間使われていないようだ。車はだいぶ田舎まで走っていったはずだから、田舎の中の小屋ということになる。
あれ―人の気配がしない?

少しの間じっとしていたが、人の気配どころか風の音すらしない。
自然の音がない。虫の鳴き声も鳥の羽ばたく音も―まるで、時が止まっているかのように。
冷や汗が頬を伝った。

やばい、直感でそう感じた。早く皆に会いたい…! 手足のツルが凍るイメージを鮮明に想像する。

パリンッ

ツルは凍って砕け、光の粒子となって消えていく。

「出口は…」

扉は不自然に鉄で出来ていた。重々しい扉を全身で押した。しかしビクリともしない。

「なにこれ固っ…」

数時間前、カフェで作戦会議したことが脳内に過ぎる。
掌を扉に当てた。ヒンヤリとした感覚が全身に伝う。

「ものは、試し…って!!」

パキパキパキパキ

触れていたところから外側に向かって扉全体が凍っていく。


「鉄さえ砕いてみせるんだから―」


物音ひとつ聞こえない小さな小屋に、声が響いた。



*****************



マリが小屋で目覚めた時とほぼ同時刻。治癒魔法を使うアヤも、目を覚ましていた。


しばらくの間―眠っていたようだ。
いつの間にかカネコとマリが車内からいなくなっていた。ましてや運転手まで忽然と姿を消していた。

「っ!?」

太股に感じる生暖かい感触に鳥肌が立つ。赤―鮮明な赤だった。

「何で右手首が取れかかってるの~」

右手首が取れかけている―それは命を狙われていた事を意味する。太股は血で濡れているが、手首からの出血は無い。手首を切られた時の出血だと考えた。見れば見るほど痛々しい傷だが、痛みを感じない。

「……お兄さん…?」

アヤとマリ、ミカのいた普遍立若葉高校。カネコと出会った場でもある。そこでカネコに見せられた〝蘇生〟。その時の男性を思い出した。
右手首からの出血はないあの男性を。

「これ…お兄さんが…」

カネコがやったと思った。それは〝右手首が狙われた〟ということではなく、〝止血をした〟ということである。

「…シェードル」

自身に治癒魔法をかける。スナーフとは違い傷を治癒をするものだ。右手首がくっ付いていく。

アヤにとってカネコは信頼できる人だった。昔から人の本性を見抜くことが出来ていた。それは直感的なものだが、外れたことは無い。
そして、カネコからは嫌なものを感じなかった。むしろ良い人だというものを感じていた。
しかし不安な点も生じた。




運転手からとてつもなく嫌なものを感じていたからだ。