ブシャッ

何かが飛び散るのを私は見た。赤く、鮮明な― 血だ。

襲撃犯の右手は飛び、完全に死んだ。眼球は前を見据えている。私は人を殺してしまったのだ。
あ、あ、ああ…。ああああああああああああ!! どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!

わなわなと震える私を見てアヤは酷く慌てた様子でカネコと話をしている。カネコはまるでこうなることを分かっていたかのように、何かをアヤに教えている。しかし、会話は全く聞こえてこない。音のないビデオを見ているかのような感覚だ。


「スナーフ!!」


だからその声が、アヤの辛そうな顔が、鮮明に感じた。
頭にバケツで水をかけられたかのような感覚がした。―私は正気に戻ったのだ。

「…アヤ」

ぎゅっと抱きしめられた。泣きそうな声でアヤは言う。

「よく頑張ったよ、マリちゃん。よくやったよ、マリちゃん。よくあんな矢を作れるよ…。いつもの妄想癖が役に立ったね」

「最後の何」

気にしないで、と涙ぐんだ目を指で拭うアヤ。

『スナーフは、精神的なダメージを回復する治癒魔法だよ。僕からも褒めておく♪ マリっぺお疲れ様!』

「治癒魔法…スナーフってアヤの魔法?」

「そだよ~。戦闘はマリちゃんに任せるね☆」

「待ってそれちょっと怖い」

とにかく、私はアヤの魔法に助けられたのだ。

「…魔法と能力って何か違うの?」

ふと疑問に思った。

『いや、同じだよ♪ まあ一般的には魔法は治癒、能力は攻撃的なものを指すことが多いけどネ』

へー、と曖昧な返事を返す。

「そういえばあの襲ってきたオッサン、私達のこと高能力者って言ってたけど~」

『あー、そんなこと言ってたかもネ♪ 確かに、二人に渡した命晶は中々強いものだよ♪』

「それで狙われてたのーー!?」

『いや、僕がいる時点で絶対狙われるよ☆ 何せ神だし』

「「うわ害悪」」

『結構辛いよその言い方!』

ははははと笑う私とアヤ。
ひと段落ついたところで、路地裏をでる。

『とりあえず、能力の匂いは消しておくから』

「オッサンも言ってたけど~。能力ってそんなに臭うものなの~?」

『能力が高いほど強くなるネ♪ まあさっきは敢えて漂わせてたんだけど』

え、どういうこと? わざとってことだよね? 襲撃犯が狙っていることをカネコは分かっていた?―

『そうでもしないと、強敵が現れた時能力使えないでしょ~♪』

「うわー。あのオッサンマジで犠牲になったんじゃん」

路地裏を出るとまた人混みのざわめきが耳に入る。周りを見渡して歩いていたら、女性にぶつかってしまった。

「あっ、ごめんなさい」

「大丈夫ですよ」

金髪のポニーテールをしている。瞳は灰色で、優しい顔立ちだ。
灰色…ミカと同じ能力かな…。

彼女はペコッと一礼すると、そそくさと行ってしまった。

「お兄さん、あの画面に写ってる文字読めないんだけど。呪文?」

前ではアヤとカネコが話している。

『あー、そっちとは文字が違うからね…。言葉が通じるんだし、その辺は大丈夫だと思うけど。えーっとなになに?』

摩天楼の上階に大きなテレビのような画面がある。そこには見た事の無い字で大きく書いてあり、ニュースを報道しているようだった。

『…王妃が、見つかった。だって♪』

「王妃ってそんなにすぐ居なくなるような小心者しかいないの?」

どうやら、王妃が見つかったらしい。
逃げ出した…ってことだよね。まぁこんな能力社会の王様の姫やってたら嫌になるわな~~。

『結構若い姫だからね。君達と同じくらいの年じゃないかな』

「あー、それなら逃げるね~」

アヤとカネコの会話に私は苦笑いを浮かべ、もう一度画面に目を戻す。
え、あれって…

王妃を見つけて喜んでいる貴族の中心に、ミカがいたのだ。