「なあなあ、お前自分の彼女のために笹原殴ったんだろ!?すげーな!ヒーローみてえ!」
「…愛美は俺のもんだし。」
昼休み。
たまたま莉斗のクラスの前を通ったとき。私はそんな会話を耳にした。
…もう、あの事件から、莉斗が学校に復帰してから、一週間も立つのに皆は莉斗が殴ったことに未だに興味を抱いている。
それに、
前までは私の話を皆とは一切してなかった莉斗が、最近では皆とするようになった気がする。
…気のせいかな?
それに関しては別に何も問題ないんだけど。
でも、
でもひとつだけ。
私の話をしている時の莉斗の目が。
あの夢の濁っている目に似てきた。
…それこそ気のせいであってほしいんだけど。
いや、気のせいだよね。
「んあー、莉斗君。最近よく聞くようになったけど、また愛美の話してるよー!ほんっと愛されてんねー!」
なんて隣でにやにやしながら和歌が話しかけてきた。
「そうかな…?」
私は曖昧に返事した。
…その時。
「愛美!!」
「?」
後ろから誰かにいきなり抱きつかれた。
私の名前を呼んだ声。
その声はいつも隣にいる私の彼氏の莉斗の声だった。
そうだ。
…そしてもう一つ。
莉斗の変わったところがある。
それは莉斗がみんなの前でもいちゃついてくるということ。
それも見せつけるように。
前までは学校でもみんなが見ていないところとか、配慮して行動してたんだけど。
本当、最近どうしたんだろう…。
……………ていうか。
「り、莉斗。みんなが見てるよ?」
「…そんなんどーでもいい。お前は俺の言うことだけを聞いてればいーんだよ…」
そんなセリフをぼそっと囁かれた。
もちろん私にしか聞こえないボリュームで。
だから余計、周りの子達を刺激してしまった。
「おおお!?なんていったんだ?おいおい! 俺たちにも聞こえるようにしろよー!ひゅー♪」
「ちょ!ほんと最近大胆よね!さっちゃんでもそんなことしないわよー!」
…和歌まで。
やばい。
人が集まってくる。
早く莉斗から離れないと………!!
そんなことを思っていたら神が味方してくれたみたい。
午後の授業の予鈴が鳴り響いた。
「り、莉斗!ほら、私達いかなきゃ!今日の放課後、ね!だから、お願いっ…!」
「…ちっ。しょーがねぇ。じゃあ約束しろ。俺以外の男子には近づくな。話すな。目を合わせるな。特に笹原には要注意だぞ。…わかってるよな?…俺の
愛ー美ーぃ…?」
ぞくっ…………………………。
莉斗の目が…。
「う、うん、わかったよ。じゃぁ、私は行くから………」
「…おー。約束、忘れるなよ」
「わかったって。じゃ、またね」
私はそう言って和歌の元に行き、その場から逃げるように立ち去った。
遠くなる莉斗達から「束縛彼氏かぁ?やるじゃねえかー!」とか「本当尊敬するぜー!」とか、そんな声が聞こえたけど
夢を思い出してしまったから振り返らずに聞き流した。
早く忘れよう……………
あんな夢。
そんなこんなで教室に戻った私はすぐさま席に着き、授業の準備を始めた。
すると………………
ブーっブーっ。
LINEの通知が届いたことを知らせるバイブが鳴った。
…誰だろ?
そんなことを思って宛名を見ると莉斗からのものだった。
莉斗にはすぐに返信しないと怒られちゃうから見ないと!私はLINEを開いた。
そこには。
【ちゃんと約束守ってるか?俺が監視できないからって他の奴といちゃついたらただじゃおかないからな?
俺が心配しなくてもいいように今すぐ愛してるって送ってこい。心を込めて送れよ。】
………………。
半ば強制的な脅しの内容だというのは大目に見ておこう。
でももう授業始まるしな…。
次の授業の先生は携帯をいじってるのを見つけたら帰りまで没収されちゃうから早いとこ送ってしまおう!
そんなことを考えて返信しようとしたら。
-----ガラッ
「おー、授業始めるぞー」
と、先生が来てしまった。
や、やばい!
早く送らないと!
焦った私は急いで愛してるの文字を打ったけれど……。
「…だ! か…だ!……おい!神田!」
「………!?は、はい!」
………………ガシャン!
…ど、どうしよう!?
いきなり先生に名前を呼ばれたので誤って携帯を落としてしまった。
「はあ、ずっと下をむいていると思ったが、やっぱり携帯か。没収だ!貸しなさい!」
「え!あ、あの!えっと!?」
既読をつけただけでまだ送ってないのに!
ここで没収されたら私、やばいよ!
「つべこべ言わない!おら。授業が終わったら取りに来なさい。いいな?!」
「……………す、すみませんでした…」
…………………あぁ。どうしよう。
…助けてください、神様。