【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫

「……何してんだよ」
地を這うような低い声が聞こえて、
次の瞬間、片手を宙に上げたまま、
身を起こそうとした男の首を、
その人の腕が締め上げた。

そのまま剥ぎ取るようにして、
首を抑え込まれ、男は彼の腕の中で意識を失う。

「……だい……」
大丈夫か、と私に尋ねようとして、
私の顔を見て、彼が絶句する。
口元に詰め込まれていたタオルを引っ張り出して、
私はようやく荒い息を継いだ。

ふと乱れた自分の格好が気になって
私はあわてて、スカートの裾を下して、
押し倒された状態から、身を起こす。

「あの、倫太郎くんのお父さんは?」
くたり、と意識を失った様子で、
先生が横に転がした、男をチラリとのぞきこむ。

「ああ、意識が落ちてるだけ……だと思うがな」
手加減してねぇから、知らねえよ、と、
そう言って、先生は少しだけ
凄味のあるような笑みを浮かべた。

その目を細めて、
ちらり、と心配げに私を見つめるから、

「あの、大丈夫……というか、未遂、です……」
思わずそう言ってしまうと、
彼がふっと安堵の笑みを浮かべた後、
「思ったより、冷静だな……」
そう言ってくつくつと笑う。

安心させるように柔らかく笑って、
「……本当によかった……」
そう真剣な声で言われた瞬間に、
どっと恐怖がよみがえってきた。