「それで、口げんかで、
『じゃあ証拠を見せて見ろよ』って俺が言ったら」

ひっく、と一瞬すすり泣く。
それでも、言葉を何とか絞り出す。

「アイツが怒って、
ちょうど日誌を書くのに、鉛筆持ってて、
それを俺の手に刺そうとするから、
とっさに、その手をはねのけて、
そうしたらもう一度刺そうとするから、
『やめろよ』ってその手をつかんで、
アイツの方に戻そうとしたら、
アイツが暴れるから、
そうしたら、鉛筆がアイツの腕に……」

話しているうちに感情が高ぶったのだろう、
呼吸も荒く、跳ねるように一気に告げる。

「……そうだったの?」
麻生先生がそう一言言う。
「そうだったのって?」
私が思わず聞き返すと、
「隼大くん、黙り込んじゃって。
何聞いても答えてくれなくって……」
はぁっとため息を零しながら、麻生先生が呟く。

「……だって、俺の話も聞かないで、
いきなり『暴力はいけないことです』って怒鳴ったじゃん」

ぼそり、と隼大が口答えをする。
でも、そうか、と思った。

最初から決めつけられたら、
この年頃の男の子は、もう、

『何言っても意味がない』
ってそんな風に思ってしまうかもしれない。