【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫

そんな夏休みの後、
学校が始まると、私も彼も忙しく毎日を過ごすことになっていた。
たまに、息抜きに寄った「穂のか」で逢うことはあっても、
ちょっとした世間話をするくらいで、
私はそれ以上にどうしていいのかわからなくて、
そんな小さなチャンスにも、一時楽しく話をできるだけで、
結局は満足してしまっていた。

千尋に電話をしたとき、そんな話をすると、
「もう一度デートに誘っちゃえ」
そんな風に言われるけど、やっぱりそんな勇気は出なくて。

というより、彼と逢うと、
そして彼と会話をすると、どうしても素直な自分になれない。

「なんだかんだ言っても、
流石看護師だな、手際が良かったよ……」
そう先日の見舞いのことを褒められたのに、

「だって、あんな風に呼び出されたら、
面倒見ざるを得ないじゃないですか。
一人暮らしなんですから、
自己管理しっかりしてくださいよねっ」

気づけばそんな言い方しかできなくって、
褒めてもらって、ありがとうございますって、
他の人なら素直に言えるのに、
彼に対してはついつい、意地を張って
可愛くない言い方をしてしまう。

店で偶然会えて嬉しいのに、
こないだの食事以来、余計意識してしまっているみたいだ。

「まあ、佳代は結構美人だしな、意外にモテるんじゃねぇのか?」
そんな風に冗談めかして言われると、

「全然モテませんよ。……やっぱりって顔してる」
……私の反応に笑みを浮かべる彼に、
結局そんな言い方しかできない。

帰宅後、彼と話せて嬉しいのに、
自分の発言でへこんだりして、
なんだか、自分が自分でおかしく感じてしまう。