【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫

「一応、ウィダーも買ってきたけど」
先生に声を掛けると、
「わりぃ、助かったよ……」
そう言いながら、答える声の語尾が震える、
やっぱり相当しんどそうだな、と思って顔を覗き込む。

「体温はちゃんと測りました?」
そう尋ねると、彼は顔を横に振る。

「一度測った方がいいですね。
体温計、どこにあります?」
私が尋ねると、先生は指先で引き出しを指さすから、
私は引き出しの中から、その体温計を取って彼に渡す。

素直に熱を測った彼から、体温計をもらうと、
39度近くあって、
私は一緒に買ってきた、氷嚢を、
額とわきの下と、
足の付け根に置いていく。

「……?」
私の氷嚢の置き方に、先生は熱にうかされながらも、
不思議そうな顔をするから、

「頭を冷やしても意味はないんですよ?
血流の多いところを冷やさないと……」

そう言うとへぇっと声を上げた。
水分と、それからゼリー食品を取ると、
辛そうに眼を細めている。

「……少し寝た方がいいですよ?
私、今日はお休みだから、もう少し様子見てますから」
そう声を掛けると、
汗をかいている額に落ちる前髪を
自分の指先でかき上げて、辛そうにため息をついて、
そっと目を閉じた。

そのまましばらくすると、
すぅ、すぅ、という寝息が聞こえて、
私はその思いがけず長い睫が落とす影に見とれる。
汗を薄くかいて、艶やかな額や、
首筋を見て、ドキンと心臓が高鳴る。

こんな風にゆっくりと彼の顔を見たことがない。
普段みたいにからかわれることもないから、
安心して私は彼の顔をじっと見つめてしまっていた。