「拓海~」

次の瞬間、隼大が自分の担任の先生の名前を
急に呼び捨てにするから、
私は思わずぎょっとしてしまった。

「隼大!!」
そう私が声を上げると、
先生は気にもしてないように、
ガシガシと隼大の頭を撫ぜる。

「先生じゃ、家族じゃないみたいだろ?
だから、家じゃあ名前で呼び捨てにしろって、
そう俺が言ったんだ」
その言葉に、私はうーんとうなって、
ふぅっとため息をついた。

「先生がそう言うなら……」
そう言うと、ニヤっと笑った隼大が、

「佳代、『穂のか』のおばちゃんが、
夕食にって弁当の差し入れしてくれてる。
ああ、先生の分もあるから、一緒に食べようぜ?」
隼大の言葉に、私たちは家に上がる。

久しぶりの我が家は、
いつもお帰り、と言ってくれるはずの母の姿はなくて、
私は、ぎゅっと胸が締め付けられるような気がする。

──私と隼大だけになってしまったんだ。

そう再度確認してしまったのが切なくて、
ふぅっと小さなため息が零れた。

それに気づいたのか、
また、先生が私の肩をポンとたたいて、

「腹減った……お茶ぐらい入れてくれるよな?」
そう言って私の顔を覗き込むから、

「はい、ありがとうございました。
ごはん一緒に食べていってください」

私は自ら家の玄関を抜けて、先生を手招きする。

さっそく、私がお茶を入れると、
隼大と先生が食事をとり始める。

私は彼らをそのままにして、
まだ新しい位牌に向かって手を合わせた。

「お母さんただいま……」
そう声を掛けて、しばらく手を合わせる。