私が席を立とうとすると、

「家まで送るぞ……」
ボソリと言って、彼が続いて席を立つ。
そのまま会計を済ませて、
久しぶりに二人で夜の街を歩く。

二人で歩く道は息が白くて。冷たくて。
それでもなんだか少しだけ近い距離が温かい。

「さみぃなあ……」
ぼそり、と彼が呟く。
「うん、もうすっかり冬だよね……」
ぽつり、ぽつりと、途切れそうな会話が続く。

以前送ってもらった時に、
桜が咲いていたあの公園の前を通りかかった時、

ふと彼が足を止めた。

「ちょっと寄ってくか?」
そう彼が私に声を掛ける。
久しぶりに彼と一緒にいて、どこか気まずいのに、
やっぱりこのまま離れてしまうのが寂しくて、
私は、彼がそう言ってくれたことが嬉しくて、
思わず頷いていた。

彼が公園のわきにある自動販売機で
温かい缶コーヒーを二つ買って、
そのまま公園のベンチに座り込む。

その横に座ると、
「……ほら」
そう言って私にコーヒーをひとつ渡す。

「……ありがと……」
掌の中で、コーヒーが熱いくらいに温かい。

二人の間で、複雑な沈黙が流れる。
小さなプルタブを引く音がして、
彼がコーヒーを口にした。
私も少し飲もうかと、コーヒーを持ち替えた瞬間。

カバンの中で携帯が震える低い音がする。
静かだからその音すら、はっきりと聞こえてしまって。
隼大からだったらいけないから、思わず私は携帯を取る。

「……あ……」
そのメールは麻生先生からのもので、
チラリと彼に視線を投げかけると、

見たら、というように彼が携帯に目線を流すから、
小さく頷いて、中を確認すると、

『宮坂先生とラブラブしてる?』
……そんなメールがきてて。
なんでそんなことまで知っているのかと思って、
ぎょっとする。

(こ、こんなメール、拓海に見せられない)

咄嗟に慌てて、携帯をしまうと、
もう一度震えるのでびっくりして、
そっと、もう一度、カバンの中に仕舞ったまま
携帯電話の画面を覗き込むと、

『南君情報だから何でも知っているよ♪
今晩は、ちょっと……
素直になってみたらいい事あるかもよ?』

そう続いていて。
思わず、小さく笑ってしまう。
読んでそのままかばんを締めた。

ふと視線を上げると、
拓海と目線が合ってしまって、
彼がそっと視線を外す。
掌の中のコーヒーに視線を落として、

「……こないだの合コンの男か?」
ぽそりと、聞くから、慌てて、

「違う、違うよ!!」
必死に言ってしまうけど、
却って怪しく思われたのかもしれない。

「……ソイツと付き合うのか?」
普段通りの声で、淡々と、
そんな風に彼が尋ねてくるから、

この間、拓海のことを好き、って言ったばかりで、
すぐ他の人と付き合うような、
私の気持ちはそんな軽い気持ちだと
思われていたのかって、
そんな風に思ったら何だか悲しくなってきて、

「……拓海のバカっ」
思わず、叫んで立ち上がる。