登校してきた宮坂先生を見て、軽く手を振る。
職員室の定位置は、私の隣が彼だ。

「昨日はみっともないところ見られちゃった……」
そう私が言うと、宮坂先生が少し無理した感じで笑みを浮かべる。
「合コンだって? 麻生先生、彼氏できたんじゃねえのか?」
そう言われて、
「うーん、男のストックは少ないよりは多い方がいいの」
くすくすと笑って彼に笑いかける。
そんな私の顔を見て、呆れたようにふぅっとため息をついて、

「なんで佳代まで……」
ポツリと言うから、
「……なんかね、この間偶然『穂のか』で逢った時に、
元気がなかったから、つい、散々飲ませて
話を聞き出したら、
『すごくすごく好きな人が居るけど、
好きになっちゃいけない人だから、諦めないといけない……』
なんて言うから、じゃあ新しい人に出会わないと!
って言って誘っちゃった…………」

あんなに可愛い子、袖にするなんてひどいよね……。
と、彼の瞳を見つめながら、真剣っそのものの顔で言うと、
彼が、髪をガシガシとかき回しながら、

「……しらねぇよ……」
不機嫌そうにそう一言呟く。
「でも、昨日は佳代ちゃんとすごく話があった人が居たみたいで、
彼女もすごく楽しそうだったし、合コンした甲斐があったわ~」
そう私が機嫌良さそうに言うと、
その言葉に「ふーん」と曖昧な返事をして、
そのまま彼は授業の準備をし始める。

その後ろ姿に、イライラしている様子が浮かんでいて、

……うーん、気になっているなあ……。
なんて思いながら、
私はその日はそのまま、それ以上の話はしなかった。


その後、岩崎さんからは、
佳代ちゃんにアプローチがあったみたいだけど、
それを受け入れるところまでは、とてもいかなかったみたい。

まあ、それも予想してたけど、
別にそんなことを素直に宮坂先生に言う必要はないから、

「なんか、こないだの男の子の中で、
めちゃくちゃ佳代ちゃんを気に入った子がいるみたい」
「佳代ちゃんも話盛り上がっていたから、
悪くは思ってないんじゃないかな?」
「なんか、彼がデートに誘っているみたいよ?」

……みたいなことは、事あるごとに宮坂先生に話したりして、
そのたびに、いらっとする彼の表情を面白がっている。

まあ、色々事情もあるみたいだけど、
さっさと素直になっちゃえばいいのに。
うかうかしていると、他の男の子に浚われちゃうよ?
そう言いたいけど、まあ、そこらへんは言うとマズイので。

「佳代ちゃん、どうするのかなあ。
今回のメンバーがダメだったら、他のメンバー探さないと」
そう独り言を彼の横であえて言ってみる。

余計な事しやがって、的な、
雰囲気を感じるのは、気のせいかな?
思わずくすくすと笑ってしまう。

結構限界来ている感じだよね。
なんか、結構やきもち妬くタイプなのかも……。

そうだなあ、佳代ちゃんも一回ぐらい、岩崎さんとデートしたらいいのに。
意外と、他の男性みたら、気持ちが変わるかもしれないよね?

うーん……。どうしようか?
……とりあえず、彼にもチャンス上げるかな?
そう思いながら一通メールを送る。

ということで、佳代ちゃんにもメールを入れてみる。
「今日意味なく、『穂のか』に来て(≧∇≦)」って

それから別にもう一本、
頼りになる彼にメールを。
私はお店に行かないから、代わりにね……。