【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫

その日、彼が病院にやってきて、
全治一か月、の先生の見立て通り、
ギプスが外れて、今迄通り、
日常生活が彼自身でできるようになった。

つまり、今日からは
私はここに来る必要はなくなるということで……。

今日が最後になるかもしれない。
そう思いながら、食事を届けにくる。

食事を届けに来て、ここ一か月、
そうしてきたように、二人で一緒に食事を取ってから、
右手が使えるようになった彼が、
食後にコーヒーを入れてくれて
二人で、コーヒーをゆっくりと飲んだ。

「今まで一か月近く、世話を焼かせてすまなかったな……」
そう彼が言うから、私は小さく顔を左右に振る。

「全然……ここに来るの、楽しかったから……」
思わず彼の目を見ることが怖くて、
一瞬視線を逸らして、それでも言葉は素直に零れおちてしまう。

「そっか……ありがとな」
そう言って、彼の指先が私の髪をかき混ぜて、
それからするり、と髪を撫ぜていく。

「あ……」
久しぶりに触れた彼の指先に、
胸の鼓動が激しく高く鳴る。
彼にとっては、深い意味のない仕草なのに、
呼吸が乱れて、息が止まりそうなほど、心臓が痛い。

すぐ離れていくと思った彼の指先が、
何度も、何度も、私の髪を撫ぜる。

心臓が壊れそうなほど、高鳴るのに、
呼吸が苦しくて、仕方ないのに、
涙が零れそうなほど、その指先が愛おしくて、
……幸せすぎて、私は声を失ったまま、
顔を下に向けて、必死に涙をこらえていた。

「……佳代……」
ふと彼がのどに絡んだような掠れた声で私を呼ぶ。
ふっとその声に顔を上げると、
ひどく真剣な表情をした彼の瞳と出会う。

「……お前、なんで泣きそうな顔してんだよ……」
そう言って、髪を撫ぜていた無骨な指先が、
そっと、やわらかく、私の目元を撫ぜる。
少しだけ、固い指先の感触に、男の人を意識する。

指先が、たまらなく優しく私の目元をなぞり、
私は感情が抑え込めなくなる。

呼吸が……苦しい。
唇が震え、息がわななく。

「……だって……」
私と彼の視線が絡み合い、
私はじわりと全身から熱がこみ上げるような気がする。

「……だって。私、拓海がこんなに好きなのにっ」
もう、こんな時間は過ごせないかもしれない。

……気づいたら涙と共に言葉が零れ堕ちていた。

──その瞬間。

くっ、というような息が漏れる音がして、
彼が治ったばかりの右手で
私を彼が引き寄せる。

気付くと私は彼の腕の中に抱き寄せられていて……。

「……なんで、お前は……」
切なげで、苦しそうな彼の声が聞こえて、


次の瞬間。
震える唇を、彼にふさがれていた。