【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫

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それから、私は可能な限りは、
毎日のように彼に食事を届けていた。

「……そんな毎日、男の家に出入りしていたら、
めんどくせぇ噂が立ったりするだろ、
大概にしておけよ……」
そう彼は言ってくれるけど、

「拓海が、噂が嫌だったら、やめるよ?」
そう言うと、
「お前は……」
そう一言呟いて、彼はしょうがないな
というような困ったような顔をして、
私を中に入れてくれる。

そのうち、互いにそうしているのに慣れてきて、
隼大が部活で遅いのを良い事に、
私は毎日彼の家に上り込んで、
一緒に夕食を食べるようなことをしていた。

彼の骨折は全治一か月と、お医者さんに診断されていたから、
きっと、その間だけ……
その間だけは、彼と一緒に居られる。

ずっと、一緒に居たいという気持ちはどこかにあるけど、
でも、今一緒に居られることがとてもうれしくて、

毎日、少しずつ彼の話を聞く。
今日学校で何があったかとか、
子供たちがどうしていたかとか、

それから昔の話も聞いた。
小さな頃はやんちゃで、よく親に怒られていたとか、
柔道は、親が礼儀作法を覚えるために、
無理やりやらされたとか、

ずっと、中学校も高校も柔道部だったとか、
でも、その話の中に、彼女の名前が出てくることはなくて、
私も彼女のことは注意深く聞かないようにしていた。

たまには、私の仕事の話や、日常の話をして、
彼にからかわれたり、面白がられたりする。

でも、彼の部屋で、二人きりだからか、
以前みたいに、彼が私の頭とかに
気軽に触れることはほとんどなくて、
それだけが、少しだけ寂しいような気がしてしまう。

最初は、好きでいられるだけでいい、
それだけで幸せだってそう思っていた。

でも、ただ好きでいられるだけでよかったはずなのに、
それができるようになると、
今度は、傍に居たい。話をしたい。
そんな風に人は思うのだと思った。

そして、もう一つ、欲望がかなうと、
人はもっと、もっとって、欲深くなるんだろうと思う。

もっと傍に近づきたい。
もっと彼に触れてほしい。
もっと彼の視線がほしい。

……私を好きだって思ってほしい。


でもそれは、きっと願ってはいけない願いで。
だけど、芽生えてしまったそれを、
消すこともできなくなっている……。

そんな風にして、
危うげなバランスの上に立った、
私にとって幸せな時はあまり長くは続いてくれなくて……。