「佳代!」
突然、向こうから聞き覚えのある声が聞こえて、

私は弾かれたように、先生の指先から
自らの手を逃れさせた。
所在なさげに、繋いでいた手を、
ぎゅっと自らの服を握りしめて誤魔化す。

「……どうしたの、こんなところで」
慌てて、そう私が答えた先にいたのは、
幼馴染の貴志だった。

「いや、仕事帰り……てか、なんで先生と一緒なんだよ」
そう尋ねてくるから、見られてなかったかどうか
ドキドキしながら、言葉に詰まっていると、

「ちょうど帰り道で出くわしたんだ。
まあ、隼大を送りにいかないといけないからな、
……お前、妬いてるのか?」

そう言って先生は貴志をからかう。

「誰が妬くかよ。珍しい組み合わせだなと思っただけだ」
貴志は真っ赤な顔をして、ムキになって言い返すと、
そのまま、ふぃっとそっぽを向いて、
機嫌の悪そうな顔をした。

「……あの、貴志。ただいま……」
一応、そう貴志に声を掛けると、そっぽを向いたまま、

「ああ……また暇なら、夜にでも、
『穂のか』に来いや」
とだけ言って、背中を向けて向こうに歩いて行こうとする。

「ごめん、私帰ったら、勉強しないと……」
その背中に慌ててそういうと、

「……あそ」
そう一言振り向きもせずに、
貴志は向こうへ歩いて行った。