その表情を見て、
恋をしている女の顔じゃあねえな、と、
ついつい下世話なことを思ってしまう。
そして、そのことに何より、どこかホッとしている自分がいる。
自分がやっている事と、やろうと思っている事と、
そして、望んでいる事と、すべてが整合性もなく、
まったく矛盾していると、そう思う。

ふっと、向こう側の席で、一瞬俺と目が会って、
一瞬沈む表情をする佳代に、
眉をしかめた貴志が、

「……カラオケ行こうぜ」
そう言って、強引に佳代の手を引っ張る。
「……う、うん……」
そう曖昧に返事をして、佳代はその強引な手に引っ張られて立ち上がる。
そのまま会計を済ませた貴志に連れて行かれて
佳代は『穂のか』を出ていく。

それを一瞬目線で追うと、
『穂のか』でアルバイトをしている南くんが、
俺の顔をそっと覗き込んで耳元で囁く。

「……俺どっちに味方するとかじゃないっすけど、
いいんですか、このまんまで」

その言葉にびっくりして彼の顔を見る。
「……佳代ちゃんがね、ちっとも楽しそうじゃないんすよねぇ……」
そうぽつりと言って、彼らが出て行った出口を見る。

「ああ、俺も佳代ちゃんのファンですからね?」
くすくすと笑って、彼が言う。
「佳代ちゃんのファンは多いですよ~。
センセも、下手打つと、マジで恨み買いますからね、
……でも、最近の佳代ちゃんはマジで不安定で、
見てられないっすよね……」
そう言って、どうするんすか? と俺に尋ねてくる。
それに対して俺は何も答えられない。

「……センセがこのまんまでいいっていうんだったら、
俺も、佳代ちゃん、口説こうかな……
不安定そうだから意外とイケルかもしんねーし」

そう言って小さく笑って、そのまま、呼ばれた席に彼は移動した。
俺は何も言えなくて、目の前の日本酒を煽る。

「マスター、同じの、おかわり」
ほっといてくれよ、とそう思う気持ちもある。
お節介がうっとおしい。
俺を追い詰めるな、俺にどうしろっていうんだ……。

そう心の中で呟いて、早いペースで日本酒を煽った。