「阿呆、面倒に巻き込むなやっ」

そう言いながら、別の男が、
私の手をつかんでいた男を引きはがして、
その男を引っ張って、車の乗りこむ。

他の男たちも同様で、厄介ごとに巻き込まれたくない、
といった風情で、あっという間に裏道から人影はなくなった。

それを見送って、
私は思わず、その場にへたり込んで座り込んでしまう。

上から視線が降ってきて、
「……大丈夫か?」
そう尋ねてきたのは、宮坂先生で。
そっと抱きかかえて、私の瞳のほうに指先を伸ばした。

何も言わずに、零れ落ちかけていた涙を指先で拭って。

「遅いから、隼大が心配してたぞ?」
そう言って、首をかしげて顔を覗き込む。
私はぐしゃぐしゃになっている顔が恥ずかしくて、
思わず指先で顔を隠した。

「一応出る前に出してきた奴だからマシだと思うけどな」
そんな私を見て、そう少しだけ照れくさそうに笑って、
先生は、ポケットからハンドタオルを出して、
渡してくるから、私はそっとそのタオルに顔を落とす。

一人暮らしの男性のくせに、
そのタオルは洗い立ての清潔な匂いがして、
私は先ほどまでの酒臭い呼気を思い出し、
恐怖に体が震えた。

私の動揺に気付いた宮坂先生が、
困ったような顔をして、ぽんぽんと、私の頭を撫ぜた。

「まあ、迎えに来たタイミングが良くてよかった……」
そう言って、
「隼大が待っているから、落ち着いたら行くか?」

そう、何もなかったように、
屈託のない少しだけ照れたような笑顔で、
手を差し伸べてくれて、立ち上がるのを手伝ってくれる。

安堵の分だけ、
……少しだけ、胸が甘く鼓動を鳴らした。