「……傷ついているのは、
きっと拓海も一緒なんだよね……」
そう呟いて、電話のこっちと向こうで、沈黙が流れる。

どこかで、結衣がいまだに、
過去のことを振りきれてないことを再確認して、
自らが佳代に惹かれ始めていることを
自覚しつつあったことが、酷くいい加減なような気がして、
俺はらしくもなく、罪悪感を感じ始めていた。

過去のことは何も清算できてない。
自らが、一番大事だった女性を護れなかったことも、
いまだに結衣を護れてやれてないことも、

そして未だ救う術もないことも、自分がひどく非力であることも。

そんな自己嫌悪に陥りながら、
俺は沙織との、電話を終えた。

その瞬間、再度携帯が震えだす。

着信を見ると、それは、佳代からのもので、
俺は一瞬躊躇してから、

「ああ……どうした?」
その電話に出た。


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私は数コールを待たずに、つながった電話に思わず動揺してしまう。
そして、電話の向こうからは、いつも通りの彼の声がして、

「あ、あの、雑誌……」

言いかけて言葉を止めてしまう。
なんて言ったらいいんだろう?
そんな私の気持ちに気づいたのか、
その言葉を彼が拾う。

「ああ、雑誌を見たんだな……」
ふぅっと疲れたようなため息が電話先で漏れる。

「……半端に佳代を巻き込んだ形になってすまない」
そう言う言葉はいつものような強いものではなくて、
どこか傷ついたような苦しそうに聞こえる声だから、

「私のことはどうでもいいんです。
ただ、私……」

拓海のことが心配で。そう続けようと思って、
心配しているけど、彼に連絡を取ってしまったのは、
きっともっと利己的な理由で、
私は彼に、彼にとって私は必要なんだ、
どんな形でもいいから、そんな言葉が欲しくて
電話してしまったことに気づいてしまって、一瞬声を失う。