仕事の間中、いけないと思いながら、
ついつい思念は拓海とその彼女のことに飛ぶ。
集中力を欠けば、小さなミスが出る。
私の仕事は小さなミスが、命取りになることもある。
必死で頭の中で先ほどの記事のことを外に排除しようとしながら、
それでも、気づけばそのことばかり考えてしまう。

彼は、彼女のことがずっと、好きだったんだ。
熱を出して朦朧としていた彼の、
切なげに彼女を呼ぶ声が脳裏のよみがえった。

切ないほどの、優しい彼の、彼女を呼ぶ声。
愛おしげに頬を撫ぜる指先……。
思い出すだけで、胸が苦しくて、涙が零れそうになる。

きっと、彼女のことが好きで好きで仕方なくて。
それなのに、なぜか彼女とは別れて、
この島にやってきて、一人で生活している。
そこにはきっといろいろな思いがあるはず。

だから、私が近寄りすぎると、
彼はそっと距離を置くのかもしれない。
きっと彼にとっては、
未だにその彼女だけが一番大事な存在で、
だから、私が近くに寄りすぎるのをあまり良くは思ってないのかもしれない。
不安と切なさで、涙が零れそうだった。
好きになっちゃいけない人を好きになっちゃったんだ。

思わずそんな風に思えて仕方がなかった。
きっと彼にとっては私は、
教え子の姉、以上の何者でもない。
なのに、私の感情だけどんどん育ってしまって、
……もうその気持ちは、なかった事にはできないくらい育ってしまった。

……彼はどうしているんだろうか?
私は気づけば、やめておいた方がいいってわかっているのに、
普段はめったにしない彼の携帯電話を仕事上がりに鳴らしてしまった……。