【完】確信犯な彼 ≪番外編公開中≫

俺の頬をナイフがかすめた瞬間、
男は深く俺の傍まで踏み込み過ぎていて、
姿勢のバランスが崩れていた。

それを見て、次の瞬間俺は、一歩引いて、
その男を袖をつかんで、払腰をしていた。
そのまま、床に落ちた男の頸動脈を抑え込み、絞め落とす。

意識を失った男を見て、ナイフを取り上げて、
ハンカチで包んで、ポケットにしまう。

まずは一呼吸を置く。
本来であれば、絞め落とした後は、すぐ活を入れて蘇生するべきだが、
そんなのは知るか。警察にまかしておけ。
そう思いながら俺は結衣の姿を探す。

俺のすぐ後ろで、床に力なく座り込んでいる彼女を見つけ、
その視線が俺を必死に求めているのを見て安心する。

背中は、その薄い肌をナイフで切り裂かれていて、
真っ赤な血液が彼女の背中を覆っていた。
声もなく、とっさに抱き留めると、
くたくたと彼女は俺の腕の中に意識を落していく。

「ごめんね。拓海が、無事でよかった……」
そう一言だけ、言葉を残して。


その後すぐに来た警察に、
男は逮捕されて、俺はナイフだけを警察に預けて、
結衣と一緒に病院に連れて行かれた。
俺も、彼女も傷の処理を受けて、
彼女は一晩入院することになり、
俺は警察で事情聴取を受けることになった。

あの事件で、最終的に5人の人が亡くなり、
俺と結衣を含めて、6人の人間が怪我をした。
柔道有段者が、一般の人に、
危険な絞め技を使ったことは、
普通であれば、問題になるところだが、
状況が状況だったせいで、厳重注意一つで済んだ。

警察を出ると、結衣が入院している病室に立ち寄る。
結衣はよく寝ていて、結衣の両親が心配そうにそこに立っていた。

俺は結衣の両親に深く頭を下げて謝る。

「俺が傍に居たのに、
結衣にこんな怪我を負わせてしまって……」
そう俺が言うと、結衣の父親がゆっくりと首を横に振る。

「宮坂君があの男を止めてくれたおかげで、
結衣は怪我だけで済んだんだよ。
護ってくれて、ありがとう……」

そう言ってくれる言葉に、
護れなかった自分が悔しくて、俺は目を真っ赤に染めて、
何度も言葉にならないまま、頭を下げていた。