会いたくない。
どうせ傷つくくらいなら、もうこのまま会わない方がいい。
郁もきっと私の顔なんて見たくないだろう。
郁を乗せた飛行機が出発する頃、私は学校で授業を受けていた。
何度も何度も教室にある時計を確認しながら。
そして、誰にでも平等に時間は過ぎていき……
いつの間にか下校時間になっていた。
郁は無事に出発出来ただろうか。
忘れ物はしてないだろうか。
郁は音楽の才能は持っていても、日常生活は抜けている事の多い、ただの六歳児だ。
会う勇気はなかったくせに、気づけば郁の事ばかり考えていた。
帰り道、自然と足が止まる。
もうこれからは家に帰っても…
『おかえりぃ!』
出迎えてくれる郁も、
『行ってらっしゃーい』
と見送ってくれる郁も、もういない。
なんの為に家に帰るのだろう。
誰もいないあの家に帰る事がこんなにも辛いと思うなんて…。
郁が…弟の存在がこんなにも大きくかけがえのないものになっているなんて……。
今更、気づくなんて私は本当に大バカだ。
せめて“ごめんね”と言えたなら…
“生まれてこなきゃよかった”なんて思ってないよって言えたなら…
後悔ばかりが募っていく。
本当は大好きで仕方ないのに。
『ごめんね…ごめんねぇぇえ。』
私はその場にしゃがみこんで動けなくなってしまった。
涙ばかりがポタポタとこぼれ落ちていく。
言葉を伝えたい相手はもういないのに。
そう…思っていた。
『お姉ちゃん…?』
その声を聞くまでは………。

