数日後…。
父と母は郁の学校先を決めると早々と仕事に戻り、父と母がいなくなった後も郁の留学は着々と準備が進められていた。
私は結局、郁を守る事が出来なかった。
郁には寂しい思いはさせないと心に誓っていたはずなのに。
私は小学校に行かなっくなっていた。
郁と過ごせる残りわずかな時間、郁と一緒にいたかった。
私の気持ちを少なからず配慮してくれたのだろう。家政婦さんは無理に学校へ行かせようとはしなかった。
『ねえ郁?』
『なあに?お姉ちゃん。』
『公園に行かない?一緒に滑り台しようよ!ブランコもいいなぁ。』
『ダメだよ…まだ向こうの言葉を覚えてる途中なんだ。』
『…そっか。そうだよね。』
郁は私より小さいというのに、遊ぶ事より勉強する毎日だった。
残り少ない時間ですら、たいした思い出も作ってあげられない。
私はなんて頼りない姉なのだろう。
『お姉ちゃん、僕のことはいいから学校行きなよ。』
『え?』
『この事がお父さん達にバレたら、また怒られるよ。』
『でも…』
『僕は一人でも大丈夫だから。それにお姉ちゃんが…』
『ッツ!』
“一人でも大丈夫”
郁の言葉に私は胸が苦しくなった。
私なんかいなくても郁には何の問題もないのだと言われてしまったようで。
『そうだよね。才能ない私が側にいても迷惑なだけだよね!』
『お姉ちゃん…?』
『あー、才能あるってうらやましい。』
『お姉ちゃん…どうしたの?』
『私は才能がないから郁の気持ち、これっぽっちも分かんないけど…郁さえいなきゃ才能なくても比べられる事はなかったのに。』
…違う、そんな事が言いたいんじゃない。
『郁なんて生まれてこなきゃよかったのに。』
思ってもない事を口にした。
でも、もう後には引けなくて…私は郁の部屋を飛び出した。
部屋を出る瞬間見えたのは、小さな体で涙を堪える郁の姿だった。

