郁にかける言葉のほとんどが

“ごめんね”

という言葉。


その言葉を告げるたび

郁が少しだけ寂しげな表情になる事に

この時の私はまだ

気づいてはいなかった。


それでも郁はニコッと微笑み



『“どうしたの、姉さん?
僕は姉さんが元気ならそれで…
それでいいんだよ”』



私の手にそっと自らの手を添えた。

その手はあの雨の日の時より

ちょっとだけ温かく感じた。



『郁………』




どうしてだろう。

どうして……

私には郁がいるのに…

守らなきゃいけない人がいるのに


一瞬でも別の事に心を奪われたのだろう。



私には郁がいてくれる。

幼い頃からずっと。

どれだけ郁に支えられてきたことか…。


郁が私の側から離れていくまで

これからは私が郁の側にいて

安心させなきゃいけないのに。


私はギュッと自分の手を握りしめた。