学校で辛い事があった事も忘れて

制服がびしょ濡れになっていた事も

家路の途中で雨が降りだした事も

どの道を通って帰って来たかも

覚えていないくらい……

私はあの失礼な男の言葉に


翻弄されていた。



好き。



たったそれだけの言葉。


『バカみたい……』


深い意味などあるはずないその言葉に

頭の隅から隅まで占領されている

そんな自分が嫌になる。

あんな酷い声を好きだなんて……


凜は家の目の前で足を止めた。



コンプレックスを他人から

好きだと言われる事がこんなにも

むずがゆい気持ちにさせる力があるなんて…



火照る頬を冷ましてくれるかのように

雨はしとしとと降り続けた。



雨を見ると感傷的になりやすくて

苦手だったけど…

たまには雨に濡れるのも

悪くないなと感じていたその時………




『え……』



雨は私の身体に触れる事はなくなり

視線を上げると




『“どうしたの?姉さん?
びしゃびしゃじゃん”』




私を包んでしまうくらい大きな傘を

さしてくれたのは郁だった。