サァ…っと冷たい風が

男の頬を撫でる。


1人ポツンと残された朝日は

一体彼女はどうしてしまったのか

何かマズイ事でも言ってしまったのか

訳が分からない状態だった。



でも、確かに耳に心に残っている。

彼女の歌声が。



朝日は慌ててポケットから携帯を取り出すと

一本の電話をかけた。

かけた先のコールは鳴ることはなく、

すぐに留守番電話の案内が流れた。

そして朝日は迷うことなく

留守番電話にメッセージを残した。



『もしもし、俺。
見つけた!やっと見つけた!』



朝日は胸の高鳴りを

押さえられないかのように

ハイテンションで話続けた。



『最後の1人ッッ!』



その言葉を残すと朝日は

暗くなる空を見上げた。


彼女だ。彼女の歌声。


どう言えば正しいのか分からないが、

彼女のあの歌声は

辛く、悲しく、悔しく、怒りを含む声。

でも、それだけではない。

荒々しく歌いながらも

綺麗だと感じた。


誰かの声を綺麗だと感じたのは

初恋のあの子以来。


どこか雰囲気が似ていると思ったのは

彼女の泣き顔を見たからだろうか。



なんにせよ

彼女の歌声こそ自分が求めていた声。



『また…会わなきゃな。』



何がなんでも、また会って

次は逃げられないようにしなくては。

彼女に会いたい。

会って話をしたい。




朝日は緩む頬に手をあて

その場を後にした。