君じゃなければ




『大丈夫!?』



驚いたように駆け寄る後藤君。

彼が来てくれたおかげか、周囲からの笑い声はピタリと止まり、

気づけば上の階にいた緑川さん達の姿も無くなっていた。



『たくっ…酷い事するな…。怪我してない?』



ずぶ濡れの私に後藤君は優しくしてくれる。

普通ならこんな状況、恋に落ちる一歩手前なのかもしれない。

でも……



『大丈夫です。』



私はサッと後藤君から距離をとった。

私には分かる。

彼の声は……


これっぽっちも私を心配などしていないと告げていた。



演技がかった嘘くさい声。

妙にタイミングも良かった。まるで合わせたかのように。

私が一番傷つくまで。



『どうしたの?』



だから、最初から彼は受けつけない。

嘘を含んだ声が私を苛立たせる。



『すみません。』


『何で…君が謝るの?』


『すみません。もう、私に関わろうとするのはやめてもらえますか?』



私の何がいいのかは分からない。

好意自体はありがたく思うべきなのだろう。

それが本当に好意なら。



『あー…やっぱり、俺のせい…だよね。君がこんな目にあってるのは。』


『あ、いえ……』


『本当ごめん!こんな風に傷つけるような事になっちゃって。でも……』



なんだろう。

違う、変な方向に話が向いていて……




『でも、これからは俺が君を守るから!』




後藤君は大きな勘違いをしたまま、私の肩をギュッとつかんだ。