君じゃなければ




髪の毛を伝いポタポタと水が地面に落ちる。
 


ドラマなどで、よくこんなイジメのシーンが流れているが、本当にする人がいるとは思わなかった。


制服は水を含み重くなり、身体の体温を奪っていくようだ。



『大丈夫ぅー?』


『ちゃんと避けなきゃー!手伝ってあげてんのにぃ。』



上の方から聞こえてくる声は緑川さんと仲の良い人たちだった。

緑川さんの為にこんな事をするのだろうか。

なんて友達思いなのだろう。


下校時間。


残っている生徒は少ないとはいえ、私を心配してくれる人などいなかった。

むしろ、クスクスとあちこちで笑い声が聞こえる。



私は上を見ることも、周りを見ることもせず、ホースを手にした。



このホースでここにいる全員に水をぶちかませられたら、どんなに気持ちよいだろう。

もちろんそんな事はしない。

我慢する事には慣れているから。


私は郁へのメールは諦め、花壇への水やりをつづけた。



『何、あいつ!シカト!?』


『そーいう態度がムカつくんですけどぉ!』



水はもうないらしい。

ジュースの空き缶などが、カンッと飛んできた。

飲み残しのジュースの汁が、制服に染みる。

けれど私が反応する事はない。


怒る事も、泣く事もしなかった。



『何あいつ!マジでキモい!』


『ウザすぎ!』



むしろどんどん怒り度が上がっていくのは彼女たちの方だった。

よほど私の態度がお気に召さないらしい。


今度は何が飛んでくるのやら。


そう思った時ー………



『止めろ!お前たち!』



唯一、止めに入ってきたのは…

私が生理的に受けつ無いと思った


四組の後藤君だった。