君じゃなければ




諦める事と我慢する事。



私はこの二つの事には慣れている。

子どもの頃からそうだった。

息をするのと同じくらい簡単で、


あまりに簡単過ぎて、自分を傷つけているとも気づかなかった。


だから……



『“姉さん、携帯鳴ってるよ”』



不審な電話も顔色一つ消す事が出来るのだ。


『誰だろう。間違い電話っぽいな。』


いいや、違う。

家に帰り着いてから携帯を開いたが、何十件と違う番号の携帯や非通知番号から電話がきていた。


嫌がらせ。


そうとしか思えなかった。

内心、多少驚きはしたが、それだけ。

わざわざ郁を心配させるほどでもない。



電源をおとしてしまえばいいだけ。



そう思って私は携帯の電源をおとし、鞄の中に戻した。

明日になればきっとこの嫌がらせ電話も落ち着いているだろうと思って。





ー次の日ー………



ただ一つ誤算だったのは携帯が私の生活において、そこまで重要度が無かった事。



無ければ無いで何とかなる。


私は朝になったら電源を入れようと思っていた携帯を、結局その日の夕方までほったらかしにしていた。

普通に学校に行き、普通に授業を受ける。

授業中なにか問題が起こる事もなかった。




だから私が、周りの……


特に緑川さんにとって目障りだったのにも気づかずにいたのだ。





全ての授業が終わり……

飯田さんからの頼みで代わった花壇の水やり登板。


靴を履き直し外に出て、水やりのホースの準備もOK。


後は登板があるから、郁に一緒に帰れないとメールを送ろうと携帯を開いた。

もちろん、昨日電源をおとしたまま。

画面は真っ黒。



『そっか。そういえば忘れてた。』



何を心配するわけでもなく、私はいつものように携帯の電源を入れた。

すると………



『ッツ!』



電源の入った携帯の画面を見て、手が震える。

 
電話の履歴にではない。

メールの履歴に驚いたのだ。

着信の比ではない、受信メールの数。

何百件と来たのははじめて。

友達の少ない私にとって、過去最高の受信メールになっただろう。

そして怖いと思ったのはメールの内容。


不気味な言葉、罵るような言葉、脅すような言葉……。


これは一人で出来る事ではない。

緑川さん以外にも、私を疎ましく思った人がたくさんいるのだろう。

それなのに……


今日は私がいても皆、普通に授業を受けていた。


こんなメールを送っていながら平然と。

朝、メールに気づいていたら、疑心暗鬼になっていたかもしれない。


いや……


今実際に疑心暗鬼になっている。



全ての人から嫌われているようで。



ーもう帰ろうー……



そう思った時ー…………





バシャーンッツ!




頭上から冷たい水が滝のように落ちてきた。