君じゃなければ

同じ学校なのに、私達の学校は高等部と中等部で校門が分けられている。

一緒に登下校するのは途中まで。

だからこそ、私と郁が姉弟だと知る生徒がほとんどいないのだ。



赤い自動販売機の近く。

そこに郁は立ったまま待っていた。

顔がうつむいてるせいか、妙に大人びて見える郁。
 

まつげは長く、白い肌、うすい唇。

顔だけ見ればまるで女の子のようなのに…

高い背と角張った指が、


男性だと主張する。



郁の姿を見つけた私は郁に聞こえるように大きな声で、郁の名前を呼んだ。


けれど、郁はうつむいたままだった。


どうしたのだろう。


いつもなら可愛らしい笑顔で、手を振ってくれるのに。

自然と駆け足で郁の側へと向った。


『郁!?』


私は思わず郁の制服をつかんだ。

郁の着ているシャツがグシャッとシワをよせる。



『“姉さん”』



郁は少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの可愛らしい笑顔をむけてくれた。


『“どうしたの?”』


『どうしたの?じゃないよ。さっきも呼んだんだよ?』


『“あー、ごめん。聞こえなかった”』



そういうと郁は耳につけいていたイヤホンをはずした。

イヤホン……。



『音楽…でも聞いてたの?』



イヤホンをつけていたのにも全然気づかなかった。

最初からそんな考え除外していたのかもしれない。



『“ううん。勉強!今日習った英語のリスニングが難しくて”』


『あ……勉強…。』



郁の返答にどこかホッとしている自分がいた。

進学校に行ってるんだもの。

勉強するのは当たり前だった。



『“姉さんは大丈夫?もうすぐ中間テストあるでしょ?”』


『私は大丈夫!そこそこ勉強は出来るんだよ。』



勉強は嫌いじゃなかった。

ちゃんと答えがあるから。

答えが分からないものを追いかけるより、私には合っているのかもしれない。




友情も恋も…音楽も私にはとても難しい。