一人ぼっち…。


その時間がこれからの私の時間。これが私の運命なのだと。

そう諦めていた。


けれど郁は違った。


いつでもどんな時でも“お姉ちゃん!”と変わらず私を慕ってくれた。

英才教育を受けながらも空きを見つければ私の側に駆け寄ってくれた。

夜になれば一人は怖いとベットにもぐってきた。


郁は郁だった。


音楽の才能があろうとなかろうと私の大切な弟。

郁はずっと私の側にいてくれる。

父と母も仕事のため、ずっと家にいるわけではなかった。

暇があったら帰ってくる…その程度。

音楽の英才教育は他の指導者に任せっきりだった。



郁は夜になると当たり前のようにベットに潜り込んできた。

私はベットの中、眠りに落ちる前に郁に尋ねた。


『ねえ郁?』

『なあに?お姉ちゃん。』

『郁は将来何になりたいの?』


郁は音楽の才能に恵まれている。

母みたいな歌手になりたいのだろうか。

それとも父のような指揮者だろうか。

それとももっと違った楽器を美しく奏でるのだろうか。

郁の将来は輝きに満ちてる。


『僕は…』

『お姉ちゃんに遠慮しないで。郁の夢を知りたいだけだから。』

『僕は…お姉ちゃんと結婚する!』


キラキラと輝いた笑顔を向ける郁に私はただ驚いた。

小学校で男子が“お母さんと結婚する”って言って他の男子にからかわれているのを見た事がある。


でも…


『お母さんじゃなくていいの?』

『お母さんはあんまり家にいてくれないし…お母さんよりお姉ちゃんの方が好き!』

『遊んでくれるってだけでしょお?』

『えー?ダメー?』


どんな理由であれ母ではく私を選んでくれた事が嬉しかった。

郁にとってはいつか忘れる夢だろう。

でも私は忘れない。忘れるはずがない。


“これからも側にいてね”


そう言ってくれているように思えたから。


郁だけが私に居場所をくれる存在なのだ。