君じゃなければ



大きな歩幅でスタスタと向かう保健室。


徐々にスピードが落ち始めた頃…


『ねぇ…私、保健委じゃないんだけど。』


飯田さんはブスッとした顔で、口を開いた。


『しかも鼻血なんて嘘じゃん。どこにも血なんて付いてないし。』

『あー…はは。』


飯田さんの委員会は美化委。

私は申し訳ない気持ちになりながら、ゆっくり手を離す。

だからといって飯田さんも体育館に戻る気はないらしい。

肩を並べて保健室へと向かって歩き出した。

今度はゆっくりとした歩幅で。



『そんなに…嫌だったの?後藤君。』


『え…?』


『“結構です”なんて彼に言う人初めて見たかも。しかも嘘までついて…』


『あー……』



飯田さんの問いに、私はコクッと小さく頷いた。


『なんで?あんなにイケメンなのに。』


『イケメンかどうかは置いといて…』


『置いちゃダメでしょ!重要だからね。』


『いや、そうなんだけど……』



簡単に言わないと。

ごちゃごちゃ理由を言っても、飯田さんには分かってもらえない気がして…



『なんだろう…なんかナルシストぽくて…』



少し簡単に言い過ぎたかもしれない。

この言葉が適切だったのか…

自分でもよく分からなかったが……



『あーでも、そう言われると分からなくないかも。』



飯田さんは大きく頷いた。


『後藤君とは小学校から同じなんだけど、その頃からチヤホヤされてたし。勘違いしちゃってる所はあるかもね。』


『そう…なんだ。』


『でもナルシストってはっきり言ったのは櫻田さんが初めてかも。的確ぅ。』


『……はは。』


喜んでいいのかは不明だ。

緑川さんをはじめ、多くの生徒が彼に好意をもっているのだから。



『それに女子生徒を敵にまわす程の魅力を感じなかったんだよね。』


 
ナルシストって感じた以外にも…

直感的に感じなかった彼の魅力。


これっぽっちも。



『魅力かぁ。じゃあ……』



飯田さんは興味深そうに私の顔を覗き込む。

そして………



『じゃあ、櫻田さんはどんな人に魅力を感じるの?』




彼女の問いに、私の足は止まった。