君じゃなければ




“結構です”



その言葉はザワザワしていた体育館中をさらにザワつかせる言葉となった。


……ーあの後藤君がー……


拒まれるなんてありえない。

多くの生徒がそう思っていたようだ。



『……え?今、なんて?』



それはもちろん後藤君自身も同じ。

自分の耳を疑っているようだった。

自分に自信をもっている後藤君には、私なんかのような人間に拒否られるなんて想像もしなかっただろう。

プライドだって傷つけてしまったかもしれない。

けれど………



『大丈夫です。保健室には一人で行けますから。』



私も無理なものは無理なのだ。

生理的に受け付けない。


誰もが自分を好きでいてくれる。


そんな風に考えていそうな彼と一分一秒も側にいたくなかった。



『だけど……』


『あっ…鼻血…かも。』



私は後藤君から掴まれていた腕を振り払い、手で鼻を押さえた。



『えっ!?大丈夫?』


『あー…大丈夫です。でも…処置されてる所なんて見られたくない…かな…。』


鼻血なんて大嘘。

でも、そう言うしかなかった。

私は近くにいた飯田さんの腕を掴むと……



『なので、保健室には保健委の子と行きますから。』




作り笑顔をし、飯田さんを連れて体育館を後にした。